介護業界では当たり前になりつつある変形労働時間制、施設の責任者も働く従業員も、知らず知らずのうちに、この制度の下で働いているかもしれません。
そんな変形労働時間制についてご紹介します。
1.変形労働時間制の趣旨
変形労働時間制が作られた趣旨は何でしょうか?
変形労働時間制は、事業内容によって繁忙期と閑散期が、事前にある程度決まっている場合、その時期に合わせて、従業員の労働時間を調整できるというものです。
例えば、繁忙期には、労働基準法で決められている1日8時間の勤務時間を超過することもありますよね。その際に、変形労働時間制を採用していれば、忙しい週の法定労働時間を超過させ、ほかの週を減らす事ができます。
これによる施設のメリットは、忙しい週の法定労働時間が伸びるため、8時間以上労働しても残業扱いにならず、勤務時間をうまく調整する事で、施設が残業代の支払いを防ぐ事ができます。
2.変形労働時間制の種類
残業代を削減する目的で、採用されがちな変形労働時間制には、以下の4種類があります。
① 1か月単位の変形労働時間制
② 1年単位の変形労働時間制
③ 1週間単位の非定型的変形労働時間制
④ フレックスタイム制
それぞれ、どのような物なのか簡単に見ていきましょう。
2-1.① 1ヶ月単位の変形労働時間制とは?
厚生労働省は以下のように定義しています?
1か月単位の変形労働時間制は、1か月以内の期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間(特例措置対象事業場(※1)は44時間)以内となるように、労働日および労働日ごとの労働時間を設定することにより、労働時間が特定の日に8時間を超えたり、特定の週に40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えたりすることが可能になる制度です(労働基準法第32条の2)。
(※1)常時使用する労働者数が10人未満の商業、映画・演劇業(映画の製作の事業を除く)、保健衛生業、接客娯楽業参照URL:厚生労働省
要するに、例えある日はもちろんある週の労働時間が40時間を超えたとしても、
「一月のシフトから算出した平均の労働時間/週が40時間以内であれば良い。」
という事になります。
2-2.② 1年単位の変形労働時間制とは
1年単位の変形労働時間制は、休日の増加による労働者のゆとりの創造、時間外・休日労働の減少による総労働時間の短縮を実現するため、1箇月を超え1年以内の期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間を超えないことを条件として、業務の繁閑に応じ労働時間を配分する事を認める制度です。
参照URL:厚生労働省
簡単にまとめると、①1ヶ月単位の変形労働時間制との違いは、②は月を跨いで調整する事になるため、繁忙期が1ヶ月以上続く事業におすすめだという事です。
2-3.③ 1週間単位の非定型的変形労働時間制とは?
1週間単位の非定型的変形労働時間制とは、労働者数が30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店の事業において、労使協定により、1週間単位(40時間以内)で1日10時間を限度に毎日の労働時間を弾力的に定めることができる制度です。
参照URL:厚生労働省
とされており、介護事業は2020年9月現在、対象外です。
2-4.④ フレックスタイム制
フレックスタイム制(労働基準法第 32 条の3)は、1日の労働時間の長さを固定的に定めず、1箇月以内の一定の期間の総労働時間を定めておき、労働者はその総労働時間の範囲で各労働日の労働時間を自分で決め、その生活と業務との調和を図りながら、効率的に働くことができる制度です。
参照元:東京労働局
従業員が個人の裁量の中で、各日の労働時間を調整する事ができる制度ですが、シフト組みにより24時間稼働する介護事業には向かない制度ですね。
3.介護業界ではどれが一般的なの??
介護・医療業界では24時間施設を運営する必要があるため、個人の裁量で労働時間を変更されたりしたら困ります。そのため、一般的に用いられてるのは、1か月単位の変形労働時間制となるかと思います。
しかし、しかし、1ヶ月単位の変形労働時間制を適用するにはいくつかの要件があり、それらの要件を満たさないと適用されません。
そして、この要件を守れていない施設もかなりあると思っています…。この後、それらの要件について解説していきます。
4.変形労働時間制を行うための要件
1か月単位の変形労働時間制を採用するには以下の要件を守らなくてはなりません。
- 対象労働者の範囲
法令上、対象労働者の範囲について制限はありませんが、その範囲は明確に定める必要があります。- 対象期間および起算日
対象期間および起算日は、具体的に定める必要があります。 (例:毎月1日を起算日とし、1か月を平均して1週間当たり40時間以内とする。)なお、対象期間は、1か月以内の期間に限ります。- 労働日および労働日ごとの労働時間
シフト表や会社カレンダーなどで、2の対象期間すべての労働日ごとの労働時間をあらかじめ具体的に定める必要があります。その際、2の対象期間を平均して、1 週間あたりの労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えないよう設定しなければなりません。なお、特定した労働日または労働日ごとの労働時間を任意に変更することはできません。- 労使協定の有効期間
労使協定を定める場合、労使協定そのものの有効期間は2の対象期間より⻑い期間とする必要があります。参照URL:厚生労働省
これらが、1ヶ月単位の変形労働時間制を採用する場合の要件になります。
5.シフト変更されていない?
残業しているのに、手当てが出ない。なぜなら変形労働時間制だから…と思い込んでいる方も多いかもしれませんが、上記の要件をすべて満たさないと変形労働時間制は適用されないことになります。つまり、通常計算され残業代が発生する可能性があるという事です。
特に介護現場で起きがちなのが、月の途中でシフトを変更されたりすることです。こうした事があるのに、残業代が出ない、もしくは少ない…とお思いの方は、一度、専門家に相談した方がいいかもしれませんね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。変形労働時間制は、現場で働く方には認識されていない制度ですが、適用している介護施設も少なくないと思います。
そんな施設で要件に外れる事があると、違法であり、適切な労働対価が払われていない可能性もありますので、介護職従事者は、自分を守るという意味で覚えておいて損は無いと思います。