「介護施設」とひとことに言っても、運営している母体が異なります。
「あなたが勤務している介護施設の母体は、何になりますか?」
「その母体はどういった点が特徴ですか?」
と聞かれて、スラスラと答えることってなかなか難しいですよね。
運営母体が異なると、、、
・会社の方針や介護施設を運営する目的が異なる
・介護士の働き方や会社から求められることが変わってくる
・給与体系や昇給の判断基準などが違うことがある
ということから、介護士として働くにあたり、運営母体について理解をすることは大事なことなのです。
「今の働き方や職場環境が合っていないかも?」と思われている方は、職場を選ぶ際に「母体は何なのか?」を考えてみると、自分に合った職場を見つけることができるきっかけになるかもしれません。
1. 介護施設を運営する母体の種類
ではそもそも、介護施設を運営する母体には、どのような種類があるのかを見ていきましょう。
①社会福祉法人
②医療法人(特定医療法人・社会医療法人など)
③株式会社・有限会社・合同会社など
④NPO法人
大きく分けると、この4つのパターンに分類できます。
先に、重要なポイントを紹介しておきます!
①社会福祉法人・医療法人など・株式会社など・NPO法人は、それぞれ異なる法律のもとで設立されている
②母体により運営できる施設の形態が異なる
という点です。
どちらかというと、母体がどういったところなのかよりも、施設の形態に着目して就業先を決定される方が多いと思います。
施設の形態ももちろん重要なことですが、母体の違いによって大きく変わることがあります。
まずは、それぞれの母体がどういったものなのか、少し具体的に見ていきましょう。
1.1 社会福祉法人
社会福祉法において、社会福祉法人とは「社会福祉事業を行うことを目的として、この法律の定めるところにより設立された法人」と定義されています。
ここでいう「社会福祉事業」とは、社会福祉法第2条に定められている第一種社会福祉事業及び第二種社会福祉事業をいいます。
また社会福祉法人は、社会福祉事業の他公益事業及び収益事業を行うことができます。
(厚生労働省ホームページより引用)
厚生労働省のホームページに記載ある内容を簡単にまとめると、、、
「社会福祉法人とは、社会福祉法をもとに設立され、社会福祉法が定める3つの事業(社会福祉事業・公益事業・収益事業)ができる母体のこと」
です。
3つの事業はこちらの画像がわかりやすいですね。
ここで注目すべきは、社会福祉法人法人では、病院や介護老人保健施設は運営できないということです。
1.2 医療法人(特定医療法人・社会医療法人など)
では、どのような母体であれば病院や介護老人保健施設を運営できるのかですが、、、病院や介護老人保健施設を運営できるのは「医療法人」です。
医療法人とは、病院、医師もしくは歯科医師が常時勤務する診療所又は介護老人保健施設を開設することを目的として、医療法の規定に基づき設立される法人です。
と厚生労働省で定義されています。
医療法人の中でも、「類型」と呼ばれる母体があります。
・医療法人財団
・特定医療法人
・社会医療法人
などが、よく目に触れる類型にあたります。
類型を詳しく紹介すると複雑になってしまうので、簡単に要約します。
・医療法人には、「社団」と「財団」という2つの区分があるが、ほとんどが「社団」である
・社会医療法人は医療法に基づく厳格な基準をクリアしなければならず、社会福祉事業や収益事業に取り組むこともできる
・特定医療法人は租税特別措置法に基づき、医療法人よりも厳格な基準をクリアしている
厳格な基準をクリアしているということは、母体の経営安全性や社会的信頼性につながるので、働き手である介護士からすれば、特定医療法人や社会医療法人で勤務したほうが良いということになりますね。
1.3 株式会社・有限会社・合同会社など
株式会社・有限会社・合同会社などは、「利益を追求するために設立」される母体のことです。
何かの法律に基づいて設立され、何かの法律が基準で業務範囲が決まるというわけではなく、簡単に言えば、「介護施設を始めるために、○○円用意したので会社を立ち上げます」と届け出さえすれば設立することができるのです。
しかし、社会福祉法人でいう社会福祉法、医療法人でいう医療法で定められた範囲の業務を行うことはできません(株式会社が特別養護老人ホームを運営する、有限会社が介護老人保健施設を運営するなど)。
1.4 NPO法人
NPO法人とは、特定非営利活動法人の略です。
NPO法人と聞くと、ボランティア活動をしている母体であるイメージが強い方が多いのではないでしょうか。
平成10年12月に特定非営利活動を活発にしよう!という目的から、特定非営利活動促進法が施行されました。
特定非営利活動とは、
保健、医療又は福祉の増進を図る活動
男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動
(その他の特定非営利活動はこちらを参照 https://www.npo-homepage.go.jp/about/npo-kisochishiki/nposeido-gaiyou)
など、20の分野での活動のことです。
介護施設の運営も特定非営利活動に当てはまるので、NPO法人も介護施設を運営できるということになります。
後ほど説明しますが、株式会社・有限会社・合同会社とは逆で、NPO法人は利益を追求しない母体です。
2. 母体の違いによる働き方の違い
母体は大きく2つに分けることができます。
非営利法人と営利法人という分け方になるのですが、働き方が大きく異なります。
非営利法人と営利法人の違い、それによる働き方の違いを見ていきましょう。
2.1 非営利法人(社会福祉法人、医療法人など、NPO法人)
社会福祉法人や医療法人など、NPO法人は「非営利法人」に分類されます。
「非営利法人」とは、事業で得た収益を職員へ配分するのではなく、公益的活動に使わなければいけないということを基本の考えとしている法人です。
つまり、非営利法人は介護士が入居者に提供したサービスをもとに発生した収益を、新たな施設の建設費や事業の運営のために使わなければいけないということですね。
そのような背景から、どれだけ収益を上げてたとしても、社会福祉法や医療法に合わない内容の事業は会社として運営できないですし、施設をきらびやかな外観にするなども求められていることではないので、出来ないことなのです。
非営利法人での働き方
非営利法人で働く介護士は、社会福祉法や医療法などの法律に則り、求められている範囲内でより良いパフォーマンスを発揮することが必要になります。
「言われたことや求められたことをきっちりやる」という人が求められる傾向にあり、「とにかく安定して働きたい」「日々与えられたことをきっちりとこなしたい」という人に合うことが多いです。
「ガツガツ成長していきたい」「自分が考えていることを仕事で表現したい」というような人にはきつく感じるかもしれません。
2.2 営利法人(株式会社・有限会社・合同会社など)
株式会社・有限会社・合同会社などの「営利法人」は、国からの報酬とは別で、「入居一時金」や「月額入居費」、「その他サービス費」などで直接的に入居者やその家族からも収益を得ているのです。
有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などが代表例ですが、有料老人ホームやサービス付き高齢者向けにもランクがあり、高級なところでは入居金が数億円というところも。。。
一方で、入居金はゼロ円というところもあるので、会社の方針によって施設の中身や、入居されている高齢者の人柄も大きく変わります。
ともあれ、営利法人は収益を上げ続けることを追求する母体です。
上げた収益については、基本的にはどのように使おうが経営者の判断に任せられることになります。
ある会社では収益目標を達成すれば賞与アップとか、最新の機材導入とかの待遇改善がある一方で、収益目標を達成しても別のことに収益を使われてしまってお給料が上がらないなど、社長とトップとする経営者の考えやレベルによって差があります。
営利法人での働き方
営利法人で働く介護士は、会社とともに成長していくという意識を持って働くことが必要となります。
会社は基本的にはどんどん成長していく(=収益を大きくしていく)ことを目標とするため、介護士としてもそれに合わせた成長を求められることが多いです。
その分、求められる成長以上の成果を出せたりする場合については、相応の評価をしてくれることがあります。
成長のスピードが早い会社では、昇進のチャンスも多く出てくるため、「成長したい」「早く昇進したい」「給与や賞与をガッツリ稼ぎたい」という方に合うと思います。
3. 母体の違いによる給与の違い
まずは介護労働安定センターが提供しているこちらのデータをご覧ください。
なだらかではあるものの、母体によって平均給与の違いがあることがわかりますね。
給与の違いについても働き方の違いと同様に、非営利法人なのか営利法人なのかで、大きく分けたほうがわかりやすいです。
働くうえで最も重要な給与について、それぞれの月額給与相場・年収相場・昇給を見ていきましょう。
3.1 非営利法人(社会福祉法人、医療法人など、NPO法人)
月額給与相場:23万円~26万円程(介護福祉士1年目の総支給)
年収相場:330万円~380万円程(介護福祉士1年目賞与込み)
昇給:年1回500円~2,000円アップのところが多い
初年度の給与相場は営利法人よりも高いですが、昇給についてはそこまで高くありませんので、大きな給与アップは望めません。
ただし、毎年の賞与が安定している点が良いポイントで、営利法人のように利益が出ていないときは賞与がほぼ出ないというような状態には基本的にはなりません。
給与が下がるということはほぼ無いので、1つのところで安定して長く働きたいという方には安心できる環境だと思います。
3.2 営利法人(株式会社・有限会社・合同会社など)
月額給与相場:22万円~26万円程(介護福祉士1年目の総支給)
年収相場:320万円~370万円程(介護福祉士1年目賞与込み)
昇給:年1回1,000円~3,000円アップのところが多い
スタートの給料は非営利法人と比較して低いですが、昇給額が非営利法人よりも大きいです。
また、頑張ったら頑張った分だけ評価してくれるという会社も多くあるため、前向きに努力できる人は給料が上がりやすい傾向にあります。
昇進に対しても積極的なので、給料アップと同時にステップアップを目指すには良いと思います。
ただし、利益が出ていない場合については、前年度よりも給与が下がったり、昇給や賞与が無いこともある点に注意が必要です。
4. 母体による施設の設備や外観の違い
「知人が働いている介護施設はすごくきれいなのに、自分が働いているところは古い感じがする」などと思われたことありますよね。
介護施設の設備や外観も、非営利法人なのか営利法人なのかで変わってくるのです。
4.1 非営利法人
「きれいな施設で働きたい」
「古い特別養護老人ホームは嫌だ」
「設備が新しいところが良い」
介護士の転職サポートをさせて頂いていると、このような声を聞くことがあります。
非営利法人は、求められていることを最低限やることができればOKという考えにあるため、例えば最先端の機材を導入したり、お風呂を改築したり、外観をきれいにしたりということは必要ないのです。
もちろん、求められていることができない状態になれば、機材を導入したり改築したりもしますが、非営利法人ではそういった理由から、設備や外観を昔のままにしているというケースがあるのです。
ただ、特別養護老人ホームについては、2002年からはユニット型が制度化されたことからおしゃれできれいな施設も立ち上がっていることもあります。
4.2 営利法人
「きれいな施設で働きたい」
「最新の設備を使いたい」
「おしゃれな施設が良い」
このように思われる方は、営利法人が運営する有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅で勤務することをオススメします。
機材を新しくしたり施設内の掃除は清掃業者に依頼したりと、利益が出ている会社は介護士が働きやすい環境を作るために努力しているところが多いです。
ここ数年でかなり多くの有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅が新たにできあがっています。
今では、全国に1万6000程の有料老人ホームがあるといわれるくらいですので、希望に合うところが見つかりやすくなっているかもしれません。
まとめ
今回は、介護施設を運営する母体の違いと、それによって変わるお給料や働き方、働く環境について紹介致しました。
介護施設を運営する母体については、以下の4つがあります。
①社会福祉法人
②医療法人(特定医療法人・社会医療法人など)
③株式会社・有限会社・合同会社など
④NPO法人
そして、その4つの母体は、「非営利法人」か「営利法人」に分けることができ、お給料や働く環境に違いがでてきます。
非営利法人
・「とにかく安定して働きたい」「日々与えられたことをきっちりとこなしたい」という人に合う
・昇給についてはそこまで高くないので、大きな給与アップは望めないが、下がることもほとんど無い
・外観をきれいにしたり、最新設備を入れたりすることを求められているわけでは無いので、古い状態のままのことがある
営利法人
・「成長したい」「早く昇進したい」「給与や賞与をガッツリ稼ぎたい」という方に合う
・昇給額は非営利法人よりも大きく頑張りが評価に反映されるが、利益が出ていないときは昇給が無いこともある
・特に有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅は外観も内装もきれいなところが多い
このように、母体が違うことで働く側である介護士にとっても変わることは多くあるのです。
就職や転職の際には、介護施設の形態や勤務条件だけではなく、運営する母体が何か?も意識して見てみてくださいね。